借金問題

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過払い金の功罪

●過払い金の原点
「あなたの借金払いすぎていませんか?」「払いすぎた利息が戻ってくる場合があります。」こんなキャッチフレーズのCM。なんか詐欺的な勧誘だと疑ったことはありませんか?

消費者金融やクレジットカードによるキャッシングの金利は明治時代にできた利息制限法という法律で決められた金利を超えているから、法律を超えてもらった金利は返しなさい。

まあ、単純に説明すると、こんな内容の判決が昭和43年に既に最高裁判所で出されていました。この判決が「払いすぎた利息は戻る場合があります。」の原点です。

一方、昭和50年代後半に、最初の多重債務者問題(第一次サラ金パニック)が社会的に顕在化した時代(このころは団地金融等とも言われていたようです。)がありましたが、この時代は、払い過ぎた利息が戻る(=過払い金)ということは一部の弁護士さん以外の法律の世界ではあまり表面化しなかったようです。

その後、平成の時代に入り、クレジットカードや消費者金融が社会全般に浸透し、手軽に借金が可能な時代に入りました。平成10年頃から第二次サラ金パニック(多重債務者問題)が社会的に再浮上し、平成15年には自己破産件数が全国で年間25万件(平成元年頃までは年間1万件前後)を突破し、ピークを迎えました。

この頃、多重債務問題を先駆的に扱う一部の弁護士さんが、消費者金融に対する払いすぎた金利を返すように最高裁判所で争い、平成17年以降は次々に借り手(債務者)に有利な判決を世に送り出しました。
その結果、高い利率の金利で借りた借金の利息は戻る。ということが世間に広まり、過払い金という言葉が広告を賑わす結果になりました。

当事務所も平成15年頃から多重債務に関する相談が徐々に増え始め、平成18年の頃には一日に何組もの相談を受けることがありました。そして、先駆的な弁護士の方のおかげで私のような司法書士でも過払い金を取り戻すことができるようになったのです。

私の事務所でも、5社から300万円もの借金を抱えて途方に暮れた相談者に、逆に過払い金300万円をお返しする。という現象が出現するようになったのです。これは、非常に驚く現象でした。相談者からは非常に感謝されました。また、自分の能力を勘違いさせる現象でもありました。

自殺まで考えて途方に暮れて相談にお見えになった方から、命を救ってもらった。という感謝の言葉を頂いて、私自身も大変励まされ、仕事に生きがいを感じ、債務整理を勢力的に取り組んだ時期がありました。いまでも借金という悩みを抱えて悩んでいる方がいれば力になりたいと思う気持ちは変わりません。

しかし、現在は、都会の弁護士、司法書士の方が地方に逆出稼ぎに来て、過払い金だけを大々的に広告して相続者を集めている光景を見て、地元の弁護士さんや司法書士が疑問を抱いていると感じています。こんな世相を
  「出稼ぎは 昔 飯場で 今 士(さむらい)」
と嘆いてみました。

そこで、過払い金は借金を取り巻く関係者にどのような影響を及ぼしたのかを考えてみたいと思います。


●借りた人に視点を向けて
大きく分けると二通りあるような印象があります。まずは、よく言われる生活費不足から雪だるま式に借金が膨らんで長期間に渡り借金生活を続けざるを得ない人。日々借金返済のためだけに生きてきた人。そして、まじめに返済を続けてきた人。そして誰にも相談できずにがんばって来た人。

このような人には、過払い金は命拾いをする本当に有難い存在になりました。こういう人に限って、過払い金の仕組みを説明すると自分には過払い金はないと言います。こういう人には過払い金は全額回収して苦労に報いてあげたい。とつくづく思います。

このタイプの方について過払い金はどのように役立つのかを追跡してみました。私は、過払い金をお返しするときは、過払い金はもともと存在していないお金だったので、病気や事故など突発的なこと以外では絶対に使わないように約束してお返ししていました。

いままで借金に追われていたことを考えれば、借金がなくなったことだけでも大変楽になるはずですから、過払い金は「いざ」と言う時の保険として使わないように約束してもらうことにしていました。

しかし、このタイプの方は、まじめですが、金銭管理が不得手である印象があります。お返しした過払い金を、「いざ」という場合にしか使わないで貯めておくことができる方はそう多くはありません。

一方、借りた金を遊興費や交際費、買い物等に使い、段々借金が増えて行くタイプ。借金が止められないのではなく、ギャンブルや飲酒、買い物、遊興が止められないために、長期間に渡り借金漬けとなった結果、過払い金が発生しているタイプです。

この方々は借金の原因(ギャンブル、飲酒、買い物、遊興等)が止められないので、過払い金は百害あって一利なし。という結果になる可能性が極めて高い印象があります。

このように借金と借金の原因が強烈に結びついている場合には、過払い金という思いもよらないお金は、借金の原因であるギャンブル等の依存行為を更に悪化させることが多いようです。この場合、過払い金は短期間のうちに消費されてしまうことが殆どです。

また、このタイプの方は、相談当初から過払い金をあてにしていることが比較的多い印象があります。過払い金目当ての相談者ほど、過払い金がなく、むしろ借金が残っている場合があります。

そして、過払い金があることが分かると、「まだか、まだか」と借り手の方から過払い金の支払いを迫られるというのもこのタイプです。一昔前までは、貸し手が取り立てるのが一般的でしたが、昨今は借り手が過払い金を取り立てることが多くなり、
  「取立ては 昔サラ金 今借り手」
と詠ってみました。


●貸し手に視点を向けて
昭和50年代の第一次サラ金パニックの頃は、サラリーマンや主婦は銀行等から小口のお金を借りることが難しかったようです。そこに目をつけた貸し手(消費者金融や団地金融)が、団地住まいの方に簡単に小口でお金を貸す仕組みを編み出し、どんどん金貸しが広がりパニックにまで至ったのが第一次サラ金パニックのです。

そして平成に入り消費者金融やクレジット会社は借金(キャッシング)が非常に簡単に利用できるように業界こぞってシステム化、多店舗化を展開し、多くの消費者が利用できる環境の構築に投資してきました。

そして、貸せば貸すほど利益を上げることができるため、業界がこぞってテレビCMや駅前ネオンサイン等で至るところにその存在を宣伝していました。

また、企業の長者番付の上位に消費者金融、クレジット業界(またはそれらのオーナー)が君臨していた時代でもありました。まさに貸し手全盛の時代と言えます。

しかし、一部の業者の強烈な回収手段により自殺者が報道され、事件に借金がからむ事が社会問題化し、業界全体が悪いイメージ一色に塗られ、最高裁判所はついに「高い利息は借り手に返しなさい。」と鉄拳を振るったのです。

その結果、上場会社でさえも倒産や廃業に追い込まれ、一時の勢力は、今では見る影もないまでに業界としては衰退してしまいました。

確かに貸し手にも相当モラルが低い業者が多いという印象があります。そして、借り手から話を聞くと悪質である業者は一定数存在するようです。

しかし、お金を借りているという負い目もあるからかもしれませんが、借り手が貸し手を非難するということは、予想以下でした。

むしろ、一部の借り手からは「どこからも借りられなかったけど、消費者金融から借りられて助けられた。」という感想を持っている方が予想以上に多く存在したのも事実です。

そうすると、弁護士や司法書士、裁判所が正義を尽くした結果、市場から排除された消費者金融やクレジット会社は、司法関係者の思いは消費者の思いの裏目に出たのではないかという若干の疑問が残ります。


●裁判所、弁護士、司法書士等の法律関係者に視点を向けて
過払い金という現象の根源は前述のとおり昭和43年には最高裁判所において判決が出ていました。しかし、昭和43年には現在ほど過払い金が表面化することはありませんでした。

しかし、この判決がある以上、高い金利は違法である。ということは明確でした。そこで、貸し手(消費者金融やクレジット会社)の業界が政治家に陳情し、議員立法で、貸し手が細かな規則を守り借り手が十分に保護される貸し方でお金を貸せば、法律を超えた金利で貸した貸金の利息は返さなくてもよい。という、貸し手側業界に法律を守らせる代わりに、高い金利をもらうことを認めるという貸金業規制法という法律をつくって貸し手業界の悪質な貸付や回収を規制しました。

この法律の成立により、とても細かな法律や規則に従ってお金を貸せば、高い利息で貸して、もらった利息でも返さなくて良い。ということになりました。そこで、貸し手はせっかくもらった高い金利を返さなくて済むように法律や規則を守る体制を整えて貸し出していました。

そして、どんどん貸し続けたことにより多くの多重債務者が生まれ社会問題化しました。この頃の貸し手の「高金利、過剰融資、過酷な取り立て」を3Kと言っていました。

その結果、特定調停法や個人民事再生等の多重債務者を救済するための法律の整備がなされ、簡易裁判所における特定調停や地方裁判所への自己破産の申立が急激に増加し、裁判所も急激な大繁盛に見舞われたのです。

また、消費者問題を精力的に扱う一部の弁護士さんたちが貸し手の貸し付け方が法律(貸金業規正法)や規則を守っていないから、利息制限法を超える金利は借り手に戻されなければならない。と次々に最高裁判所まで争い、最高裁判所はこの戦う弁護士さんの主張を認めて、借り手が支払った利息制限法を超える高い金利は戻しなさい。という判決を平成17年頃から次々に出し、借り手に有利な環境が整ったのです。

この一部の戦う弁護士さんのおかげで、全国の借り手にとって貸し手から簡単に返しすぎた金利を戻してもらうことができるようになりました。

最高裁判所が借り手に有利な判決を次々に出したことにより、法律を超えてもらった高い金利は返さなくて良い。と裁判で争うことが少なくなり、返しすぎた利息は借り手に戻してもらうことが比較的簡単にできるようになったのです。

そして、私のような司法書士でも比較的簡単に過払い金を取り戻すことが可能となったのです。

そうなると流れは一気に加勢して、多くの弁護士さんや司法書士が過払い金回収をビジネスとして参入しました。そして、テレビやラジオ、新聞、電車広告等のあらゆる媒体を通して広告し、金儲けビジネスが氾濫し始めました。

そして、都会では過飽和状態の弁護士、司法書士の過払いビジネスが地方の市町村まで出稼ぎに来る。という現象が発生しているのが現状です。

この出稼ぎ弁護士、司法書士(以下「出稼ぎ士(さむらい)」といいます)の広告は非常に高額の広告料を出して集客していることが伺えます。この現象を
  「CMは、昔サラ金 今 士(さむらい)」
と詠ってみました。

一方、地元で開業している弁護士さんや司法書士が過払い金や多重債務で広告を出すことはあまりありません。

それは、過払い金ビジネスは一過性の仕事であり、広告で宣伝して客集めをしても一時的に忙しくなるだけで永続性がないし、若干品がないと感じていることもあるように思います。

事実、広告も「相談無料、着手金無料、計算無料」とバナナの叩き売り的な宣伝文句が羅列され、ラジオでもアナウンサーと弁護士との問答形式のラジオショッピング風CMや、毎日同じ時間帯に繰り返し放送する記憶定着型、タレントをキャラクターに採用するなど、さまざまなCMが垂れ流されていることに、品格が落ちている印象が否めません。

また、出稼ぎ士は過払い金回収に特化している場合が多いようで、稼げるうちに稼ぐという一攫千金的な印象があり、地元の弁護士さんや司法書士はこれからもずっと地元で仕事をするうえで、このような広告に抵抗を感じることは頷けます。

ただ、この過払い金一攫千金現象については、そろそろ終わりを告げてもよさそうな気がしていますが、いまだに広告が氾濫していることに「CMに お金かけても ペイするの?」という疑問があります。

私は、平成23~25年頃には過払いはなくなるであろうと予想していました。しかし、いまだに多くの出稼ぎ士の折込広告を頻繁に目にするたびに、「こんなに広告費かけて、大丈夫なんだろうか?」と思う反面、「まだあるの 借金利息の 払い過ぎ」と出稼ぎ士の方に成果を聞いてみたい気持ちにもなります。


●日本全体に視点を向けて
貸し手業界が隆盛し、お金がジャブジャブ世の中に氾濫した結果、多重債務者が増大しました。

その結果、弁護士さんや司法書士が過払い金に群がり、消費者金融やクレジット会社が得た利益を吐き出させられ、その吐き出させられた過払い金の一部は債務者に戻りましたが、一部は弁護士さんや司法書士に報酬という形に変えて移動しました。

弁護士さんや司法書士には思いもよらぬバブルの恩恵を受けるとともに、収益が税金として国家に戻される流れが出ました。

しかし、一時的な利益を国家に戻すことに不満を感じた一部の悪質士(さむらい)が脱税で新聞を賑わす事態もありました。さらに、こともあろうか、戻された過払い金を借り手に返さずに自分の懐に入れてしまう罪を犯す士も報道されるに至りました。

法を守るはずの士が己の懐だけを温めることに必死になる現象に、債務整理に対する意欲を削がれたり、債務整理に疑問を感じたりした同士も結構いると思います。

また、雇用という側面でも、消費者金融やクレジット会社が全盛の頃は、比較的高い賃金で社員を雇用されていたようですが、過払い金の返還と共に解雇され、逆に債務整理に特化した極一部の弁護士さんの事務所や司法書士事務所では規模を拡大し、従業員を雇用し、機械的に債務整理をこなす債務整理工場と化す事態に至ったようです。

さらに、裁判所も人員の増員があったかどうかは定かではありませんが、破産や再生の専門係が設置され、特定調停が頻繁に利用される等、借金問題に多くの人員を割く現象が起こりました。

その波が、過払い金の収束と共に消費者金融の衰退から、法律事務所、司法書士事務所の人員整理へと波及することが危ぶまれていますし、現に、債務整理の仕事は激減しました。

まさに過払という波が関係者の間に一気に襲い掛かった一過性の経済津波と言えるかもしれません。そしてその津波が引いた後に残るものは何があるのでしょうか?

一気に膨らんだ債務整理業務が急速にしぼんだ、まさに過払いバブルの爪あとは、貸し手、借り手、法律関係者、マスコミ(広告業界)など、様々な業界や社会に影響を残して収束を迎えようとしています。

おそらく、この過払い津波の影響を受けた人は国民のほんのわずかに過ぎませんが、関係者にもたらした影響は大きかったのではないかと思います。

過払い金バブルがもたらしたものは、借り手を救済したのも事実ですが、多方面にマイナスの影響を与えたことも事実です。この現象は「過ぎたるは及ばざるがごとし」を教えてくれました。

何事も、度が過ぎると良いことも悪い影響がある。そんな訓を遺した「過払い金」その功罪はまだまだ影響を及ぼすのでしょうか。

借りる方も貸す方もそして法律関係者もいろいろと考えさせられる「過払い金」がもうすぐ姿を消す日が近づいています。

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